
AIエージェントシステムの観測とは、「いくら使ったか」だけでなく、次の問いに答えられるようにすることです。
- どの機能で費用が増えたのか
- 一つの処理で、LLMやツールを何回呼び出したのか
- モデル、検索、ツール、アプリケーションのどこで時間がかかり、どこで失敗したのか
- 費用の変化と、処理結果の品質にはどのような関係があるのか
月次請求から分かるのは、最終的な支払額です。請求額だけでは、長い入力、モデルやツールの反復、再試行など、費用が生じた経路までは分かりません。反対に、アプリケーションの実行記録だけでは、契約割引や税を含む支払額を確定できません。
この記事では、AIエージェントの一回の実行を、利用者の操作、アプリケーションの実行経路、モデルとツールの呼び出し、提供元の集計、請求明細へ分けます。軸になるのは、一回ごとの実行記録と、提供元が集計した請求データは別の層に属するという考え方です。前半では観測データの意味を説明し、後半では2026年8月22日時点の公式情報をもとに、製品が担う役割と代表的な構成を整理します。
基本用語
| 用語 | この記事での意味 |
|---|---|
| 提供元(provider) | OpenAI、Anthropic、Googleや、AWS・AzureなどのLLM提供元 |
| API呼び出し(call) | アプリケーションからLLMへ一回送信すること |
| 利用量(usage) | 入力・出力token、cache、toolなど、API応答に含まれる使用量 |
| 実行経路(trace) | 検索、LLM、tool、再試行をどの順番で通ったかという記録 |
| Agent実行(run) | 一つの目的に対してモデルやtoolを組み合わせた一連の処理 |
| AI Gateway | アプリケーションと複数のLLM提供元の間に置く中継サービス |
| APM | アプリケーション全体の遅延やerrorを調べる監視基盤 |
観測データの五つの層
AIエージェントシステムの観測データには五つの層があります。同じ費用や処理を扱っていても、取得できる時刻と細かさが異なります。
| データ | 分かること | 対応する費用の見方 |
|---|---|---|
| 利用者の一回の操作 | 何をしようとして、完了したか | 完了一件当たりの費用 |
| アプリケーションの実行経路 | 検索、LLM、tool、再試行をどう通ったか | 経路や繰り返しによる費用 |
| API応答の利用量 | 呼び出しごとのtoken、cache、tool利用量 | 呼び出し時点の推定費用 |
| 提供元の利用量集計 | Project、model、API key別の利用量 | 提供元が集計した利用量 |
| 請求明細 | 割引、契約、税、返金を含む金額 | 会計上の支払額 |

リアルタイムの原因調査と、遅れて届く請求データを同じものとして扱わない。
API応答の利用量は、応答と同時に取得できます。一方、請求データは後から届き、一回の呼び出しまで分解できないことがあります。利用量からすぐに計算できる「推定額」と、後から確定する「請求額」は、発生時刻も粒度も異なる値です。
操作・実行・API呼び出しという三つの単位
利用者の一回の操作が、一回のLLM API呼び出しで終わるとは限りません。検索、LLM、tool実行を繰り返したり、失敗時に再試行したりするからです。観測データには、次の三つの異なる単位が現れます。
| ID | 何を表すか | 分かること |
|---|---|---|
request_id |
利用者の一回の操作 | 完了一件当たりの費用、再質問の有無 |
run_id |
Workflowやagentの一回の実行 | 同じ処理の繰り返し、途中の失敗 |
model_call_id |
LLMへの一回のAPI呼び出し | Token、応答時間、error、課金内訳 |
request_idごとにAPI呼び出しを数えると、一つの結果を作るためにLLMを何回呼んだかが分かります。run_idがあれば、同じtoolを繰り返した経路も追えます。提供元が返すrequest IDは、自社で付けるmodel_call_idとは別物です。両方を残すと、提供元への問い合わせと自社の実行記録を対応付けられます。
各API呼び出しのmetadataは、機能やteamと利用量を結びます。値の種類が際限なく増える項目は、集計軸として扱いにくい性質があります。
記録するmetadataの例を開く
{
"request_id": "req_...",
"run_id": "run_...",
"model_call_id": "call_...",
"feature": "document_qa",
"team": "knowledge-platform",
"environment": "production",
"requested_model": "standard-policy",
"billed_model": "model-version-b",
"provider": "provider-a",
"region": "global",
"retry_index": 0,
"release": "2026-08-22.1",
"experiment": "context-pruning-v2"
}feature、team、environmentは集計軸になります。生のemail、API key、prompt全文を同じ場所へ入れると、閲覧権限や削除の管理範囲が広がります。利用者単位の識別子を含む記録には、利用量だけの記録とは異なる閲覧権限や保持期限が関係します。
モデルのToken以外にも観測する対象がある
Tokenは、LLMが文章を処理するときの単位です。日本語では一文字前後が一つのtokenになることが多いものの、文字やmodelによって変わります。Token数は費用の大きな手掛かりですが、処理が完了したか、ツールが成功したか、なぜ遅いかまでは分かりません。AIエージェントシステムの挙動には、費用、速度、安定性、処理結果という複数の観点があります。
費用と利用量
- 入力と出力のtoken数
- Cacheから読んだtokenと、cacheへ書いたtoken
- Reasoning・thinkingに使われたtoken
- Web検索、File Search、Code Interpreter、画像、音声、storageなどの利用量
- 一回の操作当たりのAPI呼び出し回数と費用
- 再試行、時間切れ、キャンセル、重複処理に使われた費用
同じtokenでも、提供元によって項目の意味が異なります。たとえばOpenAI Responses APIのoutput_tokens_details.reasoning_tokensは、output_tokensの一部です。両方を合計すると二重計上になります。公式API referenceで包含関係を確認できます。
Geminiではprompt、cache、回答候補、tool、thoughtの項目が分かれています。Vertex AIのresponse schemaには、totalTokenCountを構成する項目が示されています。複数の提供元を一つの表へまとめた値は、項目名だけでなく「どの利用量を含むか」という定義にも依存します。
速度と安定性
- 操作を始めてから結果が完成するまでの時間
- 最初の文字が表示されるまでの時間(TTFT)
- 結果が完成するまでの時間と、一秒当たりの生成token数
- Client error、server error、時間切れ、利用制限
- 再試行率、別の提供元への切り替え率、処理待ち時間
応答時間とtoken数を組み合わせると、2,000 tokenを返した5秒と、50 tokenしか返していない5秒を区別できます。前者は生成量、後者は処理待ちや通信などを調べる手掛かりになります。Azureの公式資料も、応答時間と生成token数を組み合わせるよう案内しています。
品質と利用者成果
- 処理の完了率、再質問率
- 正確性、根拠との一致、tool選択、指定形式への適合
- 拒否、権限違反、安全性違反
- 利用者の評価と人による確認結果
- Prompt、model、検索方法、release別の評価差
HTTP 200はAPIが正常に応答したことを示します。しかし、必要な資料を作れたか、予約を完了できたかといった処理結果までは示しません。「完了一件当たりの費用」の意味は、各機能で何を完了と定義しているかによって変わります。
利用経路によって得られるデータが異なる
LLMを直接利用する場合、cloud経由で利用する場合、Gateway経由で利用する場合では、記録が作られる場所が異なります。
| 利用経路 | 一回ごとの記録 | 全体の利用量・請求 |
|---|---|---|
| OpenAIのAPI | API応答のusageとrequest ID |
Organization Usage API、Costs API |
| AnthropicのAPI | API応答のusageとrequest ID | Usage & Cost Admin API |
| Gemini Developer API | API応答のusageMetadata |
AI Studioの利用状況と請求 |
| Google Cloud Vertex AI | usageMetadata、Cloud Logging |
Cloud Monitoring、Cloud Billing export |
| Amazon Bedrock | API応答、CloudWatch、呼び出しlog | Cost Explorer、Cost and Usage Report |
| Microsoft Foundry | API応答、Azure Monitor | Azure Cost Management |
| AI Gateway経由 | Gatewayの利用量、経路変更、再試行log | Gatewayの集計と接続先の請求 |
OpenAIとAnthropicを直接利用する場合
OpenAIのOrganization Usage APIとCosts APIは役割が異なります。Usage APIはmodel、project、user、API key、service tierなどで利用量を分析できます。OpenAIは財務用途では、invoiceへ整合するCosts endpointまたはUsage DashboardのCosts tabを使うよう説明しています。
AnthropicのUsage & Cost Admin APIも、token利用量とUSDの費用を別endpointで提供します。Workspace、model、service tier、context windowなどで集計できますが、通常のAPI keyではなくAdmin API keyが必要です。Claude Platform on AWSではprogrammaticなUsage and Cost APIを利用できず、契約経路によって取得方法が異なります。
どちらも、組織全体の集計だけでは「自社のどの機能から呼び出したか」を完全には復元できません。API応答の利用量と、自社の機能名やrequest_idが同じ記録に存在すると、提供元の利用量とアプリケーションの処理を対応付けられます。
AWS
Amazon BedrockはCloudWatchへ、呼び出し回数、応答時間、error、利用制限、入力・出力・cache token、TTFTなどをCloudWatch metricsとして送ります。CloudWatch metricsは集計値です。Model invocation logのrequestMetadataには、機能別のAPI呼び出しを表す情報を含められます。
Model invocation loggingでは、request ID、model ID、IAM identity、token数、任意のrequestMetadataをCloudWatch LogsまたはS3へ記録できます。requestMetadataへteam、feature、environmentを入れるとcall単位で集計できます。
入力と出力の本文も保存できるため、有効化する項目によって保存dataの範囲が変わります。また、2026年8月時点ではbedrock-runtimeの対象APIと、bedrock-mantleのResponses APIでlogging対応が同じではありません。
AWS請求の分析にはCost and Usage Report(CUR 2.0)を利用できます。CURはtoken種別やservice tierなどの費用を扱えますが、一回ごとのrequest IDはなく、時間単位に集約されます。一回ごとの推定額とCURの費用は粒度が異なり、model、利用種類、時間帯などが両者に共通する集計軸です。
GCP
GeminiとVertex AIはresponseのusageMetadataからcall単位の利用量を取得できます。promptTokenCountにはcached contentを含むため、cachedContentTokenCountを再加算すると二重計上になります。Thinkingやtoolの内訳にはthoughtsTokenCount、toolUsePromptTokenCountがあります。
Vertex AIではCloud Monitoringのaiplatform.googleapis.com/publisher/online_serving/token_countで、input/output、modality、shared/dedicated trafficなどを集計できます。このmetricは2026年8月時点でBetaであり、schemaが変わる可能性があります。このようなmetricをそのまま永続保存すると、保存側のschemaも変更の影響を受けます。
請求データはCloud BillingのBigQuery exportへ出力できます。Standard exportはservice、SKU、project、label、location、cost、credit、currencyなどを含みます。Call単位のtraceとproject単位の請求には粒度の差があります。Project、model、region、service tierなどは、両方のデータに現れることがある対応軸です。
Azure
Microsoft FoundryはAzure Monitorにrequest数、status、input・output token、latency、cache hit率、provisioned utilizationなどをmodel deployment metricsとして提供します。Diagnostic settingsからLog Analytics、Storage、Event Hubsへ送り、Application Insightsのtraceと結べます。
Azure MonitorのlatencyはAPI gateway側の観測です。利用者が感じたend-to-end latencyにはnetwork、application、retrieval、tool処理も含まれるため、両者は同じ範囲の指標ではありません。請求はAzure Cost ManagementでFoundry resourceやmeterを確認でき、Storageへの定期exportも提供されています。
複数の提供元を表す共通形式
複数のSDKが混在すると、同じ意味の項目が別名で記録されます。OpenTelemetryのGenAI semantic conventionsは、model、operation、token利用量、処理時間、agent、tool callを共通形式で表す規約です。既存のAPMがOpenTelemetryを受け取れる場合は、通常のアプリケーションとLLMの実行経路を同じ画面で追える可能性があります。
ただし、GenAI規約は現在も更新されています。たとえば入力tokenにはcache tokenを含み、reasoning tokenは出力tokenの一部です。OpenTelemetryへ変換された値の意味は、規約のversionと、提供元固有の項目からの変換規則に依存します。
OpenInferenceはOpenTelemetry上で、LLM、agent、tool、retriever、reranker、embedding、evaluatorなどAI固有のspanを表す規約です。OpenTelemetryのGenAI規約と同じfield体系ではありません。両方が混在する環境では、同じ出来事が異なるfield名や階層で表現される可能性があります。
観測ツールの五つの役割
観測ツールは、置かれる場所と扱うデータによって五つに分けられます。これは市場で定められた分類ではなく、役割を理解するためのこの記事上の整理です。
| 種類 | 置かれる場所 | 主に扱うデータ |
|---|---|---|
| Cloud標準機能 | LLMを提供するcloud側 | 利用量、service状態、請求 |
| AI Gateway | アプリケーションとLLM提供元の間 | API呼び出し、認証、利用上限、経路変更 |
| LLM専用基盤 | 観測データの保存先 | Prompt、RAG、agent、評価、実験結果 |
| APM | 観測データの保存先 | Web、DB、queue、LLMを含む実行経路 |
| 自社の収集pipeline | アプリケーションと保存先の間 | 項目の変換、機密情報の除去、保存先の振り分け |
以下は各役割に属する製品のカタログです。2026年8月22日時点の公式documentationに記載された機能を要約しています。
AI Gateway:複数の提供元に共通する入口
すべてのAPI呼び出しをGateway経由にすると、対応範囲内では提供元をまたいでtoken、応答時間、errorを記録できます。一方、本番の通信経路に中継サービスが増えます。停止時の影響、streaming対応、データが通過する地域、各APIへの対応範囲は製品ごとに異なります。
AI Gatewayの製品一覧を開く
| 製品 | 配置 | 公式に記載された主な機能 | 制約・補足 |
|---|---|---|---|
| LiteLLM | OSS proxy/managed | OpenAI互換の入口、multi-provider routing、virtual key、budget、観測製品へのcallback | 自社運用ではHA、version更新、価格表、provider差分が利用者側の管理範囲 |
| Portkey | SaaS/hybrid/air-gapped | Gatewayのretry・fallbackを含むtrace、cost、budget、OTel export | 未対応の価格体系では費用が0になる場合がある |
| Helicone | SaaS/OSS self-host | ProxyまたはSDKで短時間に導入し、session、cost、latency、promptを分析 | Self-host版は公式上OpenAIとAnthropicが対象で、Vertex AI、Bedrock、Azure OpenAIは非対応 |
| Cloudflare AI Gateway | Cloudflare edge | Analytics、cache、rate limit、retry、fallback、OTel、spend limit | Loggingは既定で有効でprompt・responseを含み得る。無効化とrequest単位のoverrideも提供される |
| OpenRouter | Managed gateway | 多数modelへの統一API、response単位のtoken・cost・cache・reasoning情報 | 本文loggingはopt-in。表示費用はGateway側の課金条件に基づく |
| Vercel AI Gateway | Managed gateway | Vercel project、team、API key単位のusage・spend、load balance、fallback | 集計軸はVercelのteam、project、API key。自社の業務IDやprovider請求とは粒度が異なる |
| Azure API Management | Azure managed/self-hosted gateway | OpenAI互換・Anthropic・Vertex系を管理し、token quota、metric、prompt log、semantic cacheをpolicy化 | Custom metricの次元数とcardinalityに上限がある。stream切断時はtoken countが不正確になり得る |
| Apigee | Google Cloud managed | Multi-cloud LLM APIの認証、token quota、analytics、audit、Model Armor連携 | 一部のLLM token policyはApigee hybrid対象外 |
| Kong AI Gateway | Managed/self-managed | 既存API GatewayにAI proxy、cache、guardrail、OTel cost・latency metricを追加 | Cost metricにはmodelのinput/output単価設定が必要 |
Gatewayの記録対象は、原則としてGatewayを通ったAPI呼び出しです。Browserから提供元へ直接送られた呼び出し、batch、別account、cloud内のmanaged agentなどは対象外になり得ます。
LLM専用基盤:Prompt、RAG、agentの記録
LLM専用基盤には、API呼び出しに加えて、prompt version、検索結果、tool、agent、評価用データ、利用者の評価を扱うものがあります。費用、実行経路、回答評価、prompt管理を同じデータモデルで結び付ける点が、請求集計や一般的なAPMとの違いです。
LLM専用基盤の製品一覧を開く
| 製品 | 提供形態 | 公式に記載された主な機能 | 制約・補足 |
|---|---|---|---|
| Langfuse | Cloud/OSS self-host | Trace、prompt管理、eval、dataset、token・cost、OpenTelemetry | 費用はmodel価格による自動推定または契約単価のoverride。Self-hostにはDB・object storageが必要 |
| LangSmith | Managed中心 | LangChain/LangGraphのtrace、experiment、online eval、prompt | 対応する計装経路と保持期間は契約・構成によって異なる |
| Arize Phoenix | OSS/self-host | OpenInference、local-first trace、RAG・agent eval、dataset、experiment | 認証、保持、HAはdeploymentによって異なる |
| Arize AX | Commercial platform | Production trace、online eval、drift、dashboard、alert | Phoenixとは提供形態と運用機能が異なる |
| Braintrust | SaaS/enterprise data plane | Traceからdataset・experiment・online scoringへつなぐ開発workflow | Self-hostはdata planeが中心 |
| Opik | Cloud/OSS self-host | Trace、conversation、feedback、agent graph、eval、OTLP ingest | 価格表で解決できないmodelにはcustom costが必要 |
| W&B Weave | W&B platform | Trace、object version、evaluation、feedback、ML experimentとの接続 | Cost trackingは言語SDKで対応差がある |
| MLflow Tracing | OSS self-host/managed MLflow | ML experimentとLLM trace、eval、prompt、datasetを同じ基盤に置く | Costは価格表による推定。公式上、TypeScriptのcost trackingは2026年8月時点で未対応 |
| Fiddler | Enterprise platform | Faithfulness、relevance、safety、PIIなどtrust modelのproduction監視 | 評価にはprompt、context、response、source documentの送信が必要 |
| WhyLabs | Hybrid SaaS | Privacy-preserving profile、LLM security、guardrail、drift | 個別callのdebugよりsecurity・fleet監視を中心とする機能構成 |
| Patronus AI | SaaS/Kubernetes self-host | Evaluation、hallucination・safety test、production monitoring | 費用集計より評価・policy検証を中心とする機能構成 |
| Laminar | Managed/OSS系SDK | Agent trace、evaluation、OpenTelemetry、主要SDKの自動計装 | 対応framework、hosting option、本文保持の範囲は構成によって異なる |
次の製品も、agentの長い実行経路、prompt管理、事前simulation、人による評価を扱っています。
| 製品 | 主な焦点 | 範囲・補足 |
|---|---|---|
| AgentOps | Agent session、tool、custom operation、cost | Cloudに加えてself-host手順もある |
| PromptLayer | Prompt registry、request history、trace、token・cost・latency analytics | Prompt versionとrequest analyticsを同じ製品で扱う |
| Lunary | Log、trace、prompt、evaluation、cost | Cloudとself-hostを提供 |
| Galileo | Trace、production evaluation、hallucination・safety metric、alert | 評価samplingと専用evaluation modelを提供 |
| HoneyHive | Agent trace、dataset、experiment、human・online evaluation | Agent trajectory、evaluation、human annotationを同じ製品で扱う |
| Maxim AI | Simulation、trace、online/offline eval、dataset、cost alert | Release前のsimulationから本番監視までを扱う |
| LangWatch | OSS LLMOps、trace、evaluation、agent simulation、prompt | OpenTelemetryを軸にしたOSS platform |
| Traceloop | OpenLLMetry、trace、monitor、experiment、guardrail | OpenTelemetry-nativeな計装とmanaged backendを提供 |
この表の製品は完全な代替関係ではありません。たとえばPhoenixやMLflowと既存APMは併用できます。一つのAPI呼び出しへ複数の自動計装を適用すると、同じ処理を表すspanが重複することがあります。
既存APM:アプリケーション全体とLLMの接続
APMのAI観測機能は、利用者の操作からWeb service、queue、検索、LLMまでを同じ実行経路として表示します。LLM専用基盤とは、アプリケーション全体を扱う範囲の広さが異なります。Promptの実験や、人による評価の機能は製品ごとに異なります。
APMのAI観測機能一覧を開く
| 製品 | 公式に記載されたAI観測 | 主な接続先 | 制約・補足 |
|---|---|---|---|
| Datadog | LLM・agent trace、token、推定cost、latency、error、evaluation | Datadog APM、log、monitor | 費用は公開価格または手動単価による推定 |
| New Relic | APM agentでmodel call、token、cost、quality、user feedbackを相関 | New Relic APMへAI applicationを追加 | 対応範囲はagent・library・versionで異なる。Sensitive data向けのdrop filterがある |
| Dynatrace | OneAgent、OTel、OpenInference、OpenLLMetry、agent・tool・model topology | Dynatrace OneAgent、Grail | Evaluationなど一部機能はpreview |
| Grafana Cloud | OTel-native trace、token、cost、GenAI eval、vector DB・GPU・MCP監視 | Grafana、Tempo、Prometheus | OpenLITなど別の計装componentを使用 |
| Elastic Observability | Provider integrationのmetric・log、EDOTのOTLP trace、dashboard、cost | Elasticへlog・APM・security dataを集約済み | 言語・provider別の対応差があり、一部EDOT機能はtech preview |
| Splunk Observability Cloud | OTel trace・metric、agent、token、推定cost、quality・risk | Splunk APM、Splunk platform | 機能はconversation dataの保存先で差がある |
Honeycomb、SentryなどのOTLP backendもGenAI spanを受信できます。ただし、OTLPの受信機能と、cache・reasoning tokenの内訳、model価格、conversation、evaluationの専用画面は別の機能です。
計装library:観測データの生成と送信
計装libraryは、アプリケーションから観測データを取り出すための部品です。保存や画面表示を担当する製品ではありません。製品固有SDKのほか、次の標準・libraryがあります。
計装libraryと標準の一覧を開く
| 選択肢 | 役割 | 出力先 | 制約・補足 |
|---|---|---|---|
| OpenTelemetry GenAI conventions | Provider・agent・toolの共通attributeとmetric | OpenTelemetry対応backend | 規約は更新中 |
| OpenInference | LLM、chain、retriever、reranker、tool、evalのAI向けsemantic convention | OpenTelemetry対応backend | OTel GenAIとはfield体系が異なる |
| OpenLLMetry | 主要LLM SDKとframeworkの自動計装 | OTLP対応backend | Libraryと対象SDKのversionに対応範囲がある |
| OpenLIT | OTel trace・metricの自動計装、cost計算 | GrafanaなどOTel対応backend | Custom価格表と本文capture設定を持つ |
| OpenTelemetry Collector | Receive、redact、sample、route、export | 一つまたは複数のbackend | LLM向け分析画面や請求照合機能は持たない |
OpenTelemetry Collectorをアプリケーションと保存先の間に置くと、prompt本文の削除、項目名の変換、保存する実行記録の選別、複数の保存先への振り分けを一か所で行えます。実行記録を間引くsamplingと、全件から作るtoken・error・費用の集計は異なる処理です。
観測製品が表示する費用の多くは、token数と価格表から計算した推定額です。契約割引、予約・provisioned capacity、batch割引、税、creditまで含む請求額とは別の値です。この違いは製品の優劣ではなく、一回ごとの実行記録と会計上の請求データの粒度が異なることから生じます。
三つの構成パターン
製品を置く場所によって、通信経路と管理対象が変わります。構成は大きく三つに分けられます。
一つのcloudに観測データが集まる構成
利用者 → アプリケーション → CloudのLLM
│ │
└─ 実行経路 ├─ 利用量・応答時間
└─ 請求データ
AWSならCloudWatchとCUR、Google CloudならCloud MonitoringとCloud Billing export、AzureならAzure MonitorとCost Managementが対応します。Cloud標準の認証、network、請求機能と観測データが同じ基盤に集まる構成です。Cloud側から見えないAgentやRAG内部、処理の完了結果は、アプリケーションの実行記録やLLM専用基盤が扱う範囲です。
Gatewayが複数の提供元の入口になる構成
利用者 → アプリケーション → AI Gateway → 提供元A/B/C
│ │ │
│ ├─ 利用上限・経路 └─ 利用量・請求
└─ 処理結果 └─ API呼び出し記録
すべてのAPI呼び出しをGatewayへ通すと、認証、提供元の選択、利用上限、再試行、別の提供元への切り替えを共通化できます。Gatewayは本番の通信経路に入ります。この構成では、時間切れと再試行の担当、障害時の迂回、再送時の重複処理がGatewayの動作とアプリケーション全体の性質に関係します。
通信経路と観測データの経路が分かれる構成
アプリケーション → LLM提供元
│
└─ OpenTelemetry → Collector → APM
├─ LLM専用基盤
└─ 長期保存
LLMへの通信は提供元へ直接送り、観測データだけをCollectorへ集める構成です。Collectorは、機密情報の削除、記録の選別、保存先の振り分けを担います。通信経路には入らないため、API呼び出し前の利用上限や提供元の切り替えは扱いません。
Cloud標準の請求データ、Gateway、LLM専用基盤、APMは併用できます。請求データ、API呼び出しの入口、処理結果、実行経路をそれぞれ別の製品が保持することもあれば、一部が重複することもあります。
費用変動を構成する指標
API呼び出しごとに、入力、出力、cache、toolの単価が異なります。推定費用はそれぞれの利用量と単価から構成されます。全体の費用は、操作数、一操作当たりのAPI呼び出し回数、一回当たりの利用量、model・tool単価という複数の要素に分解できます。
| 指標 | 表している関係 |
|---|---|
| 時間当たりの推定費用と請求額 | 即時の利用量と会計上の金額 |
| 操作数と完了数 | 利用量と処理結果 |
| 一操作当たり、一完了当たりの費用 | 一件の処理と、その成立に要した費用 |
| 一操作当たりのAPI呼び出し回数 | Agentの繰り返し、再試行、提供元の切り替え |
| 一回の入力・出力・cache token | 入力、回答、cache利用の大きさ |
| Model・提供元・機能別の費用 | 費用が発生した場所 |
| TTFTと操作全体の応答時間 | LLMと、それ以外の処理を含む時間 |
| Error、利用制限、時間切れ、低評価率 | 費用と安定性・品質の関係 |
P50は処理時間の中央値で、半数の処理がその値以下に収まることを表します。P95は95%の処理がその値以下に収まる境界です。平均値が全体を一つの値にまとめるのに対し、p50とp95の差は一部の遅い処理がどの程度存在するかを表します。
Prompt本文と利用量データの違い
Promptと回答本文は原因を説明する情報になりますが、個人情報、機密文書、認証情報、著作物を含む可能性があります。本文を保存すると、観測基盤も業務データと同じ管理範囲に入ります。
本文を保存しなくても、次の情報は記録できます。
- ID、時刻、機能、team、本番・検証環境、release
- 提供元、model、region、service tier
- Token内訳、tool利用量、応答時間、status、再試行、提供元の切り替え
- 処理の完了結果と回答の評価
本文の保存には、保存目的、対象範囲、機密情報の除去、暗号化、閲覧権限、保存地域、保持期限、削除方法が関係します。本文を持たない利用量記録と、機密情報を除いた一部の本文記録を分離する構成もあります。
まとめ
この記事では、AIエージェントシステムを、利用者の操作、アプリケーションの実行経路、API応答の利用量、提供元の集計、請求明細という層に分けました。三つのIDを対応付けると、長い入力、agentやtoolの繰り返し、再試行、提供元の切り替えを一回の操作までさかのぼって調べられます。
すぐに計算できる推定額と、後から届く請求額は同じではありません。期間、model、project、利用種類などは、粒度の異なる両者を対応付ける集計軸です。複数の提供元を共通形式で表す仕組みには、OpenTelemetry、OpenInference、提供元別の変換処理があります。
費用、応答時間、回答結果は、それぞれ別の性質を表す観測軸です。費用だけでは処理が完了したかは分からず、HTTP statusだけでは回答の正しさは分かりません。これらを同じ操作へ対応付けることで、利用量、挙動、結果の関係が見えるようになります。
参考資料
- OpenAI Organization Usage and Costs API
- Anthropic Usage & Cost Admin API
- Gemini/Vertex AI GenerateContentResponse
- Amazon Bedrock model invocation logging
- Microsoft Foundry model deployment monitoring
- OpenTelemetry GenAI semantic conventions
- OpenInference specification
- Langfuse token and cost tracking
- LangSmith cost tracking
- Arize Phoenix cost tracking
- Datadog Agent Observability cost
- OpenRouter usage accounting



